2008年12月18日木曜日

グールドのピアノ

私のこだわり人物伝 2008年4-5月 (2008) ヘルベルト・フォン・カラヤン 時代のトリックスター/グレン・グールド 鍵盤のエクスタシー (NHK知るを楽しむ/火)という小冊子をぱらぱらと眺めていたら、長くグールドのピアノの調律を勤めたエドクィスト氏の手記が掲載されているのを見つけた(翻訳・再構成は宮澤淳一氏)。

グールドはチェンバロによるヘンデルの録音「ヘンデル:ハープシコード組曲」を残している。大変親密な雰囲気のすばらしいアルバムだと思っていたのだが、なぜチェンバロで演奏したのか、ということについては深く考えたことはなかった。

エドクィスト氏の手記によると、実はこの時期、グールド愛用のスタインウェイCD318は、輸送中の事故により大破して工場送りになっていたという。落とされて上下さかさまになり、フレームプレートに4箇所ひびが入るほど非常に大きな衝撃を受けたと推測されている。「破損を発見した晩、グレンは私をつかまえ、少なくとも2時間にわたり、CD318に関する質問を浴びせかけ、不安をぶつけてきた」。

工場で新たに鋳造されたプレートをはめ込まれて返送されてきたが、「しかし音は変わっていた」。

その時点では、ピアノはスタインウェイから貸与されていたものだった。後にスタインウェイは、それぞれのピアニストに購入を求めた。グールドは、以前の音色を取り戻さなかったそのピアノを、何故か買い取ったそうである。

暖炉の傍で薪のはぜる音を聞きながら楽しむような雰囲気のヘンデルの録音だが、こういった逸話を知ってからだと、また違った趣を感ずるものである。



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