2014年10月27日月曜日

螺旋

午前中は読んだり書いたりしなくてはならないものがあって,粛々と仕事をする.

昼食を挟んで,午後はB4ゼミ.青木先生のテキストで,類数$1$の虚2次体と素数生成多項式の話など.関連して,ウラムの螺旋の話をする. 原点に例えば$11$を書いて,上に $12$, 左に $13$, 下に $14$, ...と螺旋状に数字を書いていくと,$f_{11}(x) = x^2+x+11$ の $x=0, 1, 2, \dots$ 代入した時にあらわれる素数 $11, 13, 17, 23, \dots$ が対角線上にあらわれる,というお話である.

ウラムの螺旋については,結城浩さんの「数学ガールの秘密のノート/整数で遊ぼう」の2章でも触れられている.

(よく知られているのは,原点に$0$ または $1$ を書いて,らせん状に数字を書き並べていくと,傾き $1$ または $-1$ の直線上に素数がたくさん乗っていて面白い,というものだが,上のような描きかたでも面白い).

いろいろと派生する話があって面白いのだが,それはいずれ稿をあらためて.


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2014年10月26日日曜日

SLA

数学英語という講義を(同僚と共同で)担当していて,泥縄的に資料を読んでいる.私の担当は後半で,11月からである.

英語を教えること,学ぶことについて理論的な後ろ盾が欲しく,第二言語習得論(Second Language Acquisition)についての読み物を,先週から幾つか読んだ.アメリカでは,国防的な観点からも(!)母語以外の言語をいかに早く正確に修得するか,というテーマの重要性が認識されるようになり,研究が進んでいるという.
白井恭弘「外国語学習に成功する人、しない人―第二言語習得論への招待 (岩波科学ライブラリー)」,岩波ブックレット,の付録「知っておきたい外国語学習のコツ」から抜粋すると,学びたい言語に対して,
  • 背景知識のある,興味のある分野について大量にインプット
    • 内容が8割方分かるようなリスニング
    • 外国語で情報を入手
  • 日記,独り言を録音,チャットなどで少しずつでもアウトプットをする
  • 話す練習
    • 意味を通じさせる
    • 正しい文を言う
    • 正しい発音
    • コミュニケーションストラテジー(英語なら,well..., you know..., などが時間稼ぎのストラテジー)
  • 単語・熟語は文脈の中で覚える
  • 発音・音声は,意味・構文のわかっている文章で正しいお手本でリピート,シャドウイング
  • 文法は基本的なもの(中学〜高校1年)を文が作れる程度にマスター
  • 動機付け重要

数学を学ぶことについても,同様に成り立つことがあるのではないか,という点も気になる問題である.数学にも語学としての側面はある.自然言語と比べれば,かなり単純なのではないかとも思う.しかし一方で,母国語の後に第二言語(自然言語)を習得した人の数と,数学を習得した人の数を比べると,前者のほうがはるかに多いだとも思う.数学の場合,語学としての側面の他に,その言語によって記述される対象を認識できるようになる,ことが必要だからだろう.(ここで数学におけるプラトニズムに話を広げると収集がつかなくなる).

第二言語習得については,母国語の他に人工言語を学ぶ人達の研究があるのか興味がある.端的に言うと,プログラミング言語である.複数のプログラミング言語を学ぶために,SLAの知見が役に立つだろうか?


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2014年10月25日土曜日

GとL

実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議(第1回) 配付資料」の中のプレゼンテーション資料(上記ページの資料4)がなかなかすごいと評判なので,遅ればせながら読んで見る.

国際的にトップレベルの一部(G型大学)を除き,国立大学(L型大学)は職業教育に特化すべしといった内容である.例えば,L型大学の法学部では,憲法や刑法ではなく,道路交通法,大型二種免許・大型特殊第二種免許の取得,を教えよ,と主張している(同プレゼンテーション7ページ).

このプレゼンテーションの内容を真に受ける必要はない,ということもできるが,日本の高等教育をこれからどうしていくか,という大きな問題に目を向けさせるきっかけにはなるかもしれない.

人口が,特に大学の学生となる年代の人口が漸減し,それに従って起きる諸々を考えれば,現状維持が不可能であることは自明である.

大学が,もう少し出たり入ったりがし易いものになれば,と思うことがある.大学に限らず,世の中で生きていくうえで,「このまま進んでいくのではなく,別の道を選ぶ」,という選択がしやすければ,最適化が進みやすいのでは,ということである.

2014年10月23日木曜日

無理性

午前中,来客対応.夕方からセミナーのために金沢へ.今日は $p$ 進ゼータ関数(ただし $p=2, 3$)の正の整数点での特殊値の無理性についての講演だった. これらの値の無理性が,いくつか特別の場合に知られているが,その別証明を目指すもの.興味深く拝聴した.

出歩くときに,emobile(最近Y!mobileにブランドが統合された)のWiFiルータを使っている.1時間で300円,1日で600円(税別)などのプリペイドのプランで,以前は月に数度程度の利用だったからそれでよかった.が,最近は月に5回も6回も使う月もあったりして,たいへん割高に感じる.安価なSIMとロックされていないWiFiルータの組み合わせなどを検討したい.

2014年10月22日水曜日

お伽草紙

午前,午後とM2ゼミ.Ireland-Rosenを読んでいる.そして修了に向けての打ち合わせ.午後は早めに終わった.

その後は学部生との助言教員面談のために研究室待機である.ぱらぱらとあらわれる学生の方々と,面談.単位取得状況や出席状況,進路の希望などのインタビューをする.そしてメモを学内の履修管理システムに登録した.

行き帰りの市電の中で,太宰治の「お伽草紙」を読む.先日「女の決闘」に触れたら教えていただいた作品だ.こちらはよく知られた昔話,「瘤取り」,「浦島さん」,「カチカチ山」,「舌切雀」をそれぞれ再話したものだが,作者によって自由に味付けされていて,その語り口と諧謔に幾度と無く吹き出さずにはいられない.

「舌切雀」を読み終えてしんみりしていると,しかし,このお話の始まりは,防空壕の中で空襲を気にしながら,幼い子供に昔話を読み聞かせている作者の胸中だったはずで,そのへんはどうなったんですか,と問わずにはいられない仕組みでもあるようだ.

随分と冷え込んで,冬を予感させる夕方だった.

2014年10月21日火曜日

基本的な考え方

午前中,2年生向けの代数学Iの講義.ユークリッドの互除法や連分数など.

先週のこの授業でのことを,昼休みにつぶやいたら思わず大きな反響があった.まったく思いがけないことで,何がどうしてそうなったのか今でも分からない. このつぶやきであります.

デジカメやスマートフォンなど,昔はなかったものが学生にとって普通の道具になって,思いがけないようなことが教室で起きる,というのはこれからもあることでしょう.なので,個々の場合に応じて何が良くて何がダメ,というのは筋が悪いように思います.「基本的な考え方」(そういう紋切りが身近なところでもよく使われるのですが)として,まじめに勉強したい人の邪魔になることはしない,ということが挙げられると思います.シャッター音を響かせない,とかね.

2014年10月20日月曜日

女の決闘

原さんのblogで触れられていたので,太宰治の「女の決闘」を読む.Kindle版なら無料ですぐに手に入る.

実は太宰治は敬して遠ざけていて,「走れメロス」,「人間失格」,「斜陽」や「ヴィヨンの妻」などを子供の頃に読んで,それきりだった.

「女の決闘」は,森鴎外の翻訳短編を補作しながら,その補作の様子に解説を加える文章もあるという多重階層をもった作品である.読み流せば面白い作り物ということでおしまいだが,どの階層で誰がどの階層に言及しているのかを考えだすと,その作りこみ具合がたいへん精緻である.そしてまた,印象的なのは,一瞬にして移ろう感情の流れを高い解像度で鮮明に写しとる太宰の技法の冴えである.

未読の方には強くおすすめしたい.

今日は午後からB4ゼミがあった.メンバの一人が黒板を消す様子が,羽衣文具が公開する「黒板をキレイに拭くことが上手くできないんんだけど、コツなんてあるの?」と同じだった.「その消し方はどこで教わったのですか?」と尋ねると,高校の先生がそういう流儀だったとのこと.チョークの粉が粉受けに落ちるように,黒板消しを上から下に使うのである.言われてみれば当然のことでも,自分では気づかないことであった.先日twitterで教わったばかりだった.

2014年10月19日日曜日

Chromebook Acer C720

自宅で使っているラップトップがいい加減古くなってきて,更新を検討していた.思い立った時にすぐに使える,という点を重視して機種選定する.

タブレット端末は気軽に使えるが,少し長い文章の入力をしようとすると,ソフトウェアキーボードでは辛くなってくる.Bluetoothのキーボードも考えられるが,今回はChromebookを選択した.

Chromebookとはなにか,はGoogleの当該ページに譲るとして,実際にはLinuxの最小限の構成の上に,ウェブブラウザのChromeを導入し,殆どのことをウェブ越しに行うというものである.

実際に使い始めてみると,箱から出して,問われるがままに無線LANの設定と言語の設定くらいをすると,Googleのアカウントでログインしてすぐに使い始められる.箱から出して10分とかかっていない.

しかも,Chromeに導入している機能拡張などもネットワーク越しに反映され,普段使っているのと同じ環境がすぐに使えるようになる.

一昔前のネットブックのように,非力なパソコンを無理して使うというものでもなく,今回購入したAcer C720のCPUはHaswell世代のCPUで,使っていて十分と感じる.SSDは32GBのものにしたが,16GBでも良かったかもしれない.

一言で言うと,非常に手軽である.

一方で,例えばMicrosoft Word, Excelのたぐいは導入できない.開発環境なども原則としてはない.いずれも,クラウドでの代替サービスを使うことになる.私はSageやpari, TeXを使うときには cloud.sagemath.com, Word・Excellのたぐいはめったに使わないので,(どうしても必要なら)Windowsのパソコンを使う.

液晶ディスプレイが11インチで,やや小さく感じる(ベゼルが太いこともあるかもしれない).また,最近のラップトップやタブレット端末の,高輝度・高精細の液晶ディスプレイと比べると見劣りがして,視野角も狭く,値段相応である.

さらに,日本国内では正式に発売されていないので,並行輸入品を購入することになる(最近,Dellなどが国内でも販売するようになった).

こういったpros and consを考慮して使えば,非常に使いでのある端末だと思う.1週間ほど使って,良い買い物だったと思う.


2014年1月8日水曜日

紛らわしい

午前中は,文献読み.昨年11月下旬ぐらいに,落ち着いたら読もう,と借りた専門書を,年末から眺めていた.松の内も明けてようやく,何が書いてあるのかは分かってきた.

昼食を挟んで,午後は会議.思ったよりも早く終わったので,郵便局へ出かけたり,幾つか所用を済ませることもできた.

学科の図書室で数セミを眺めていたら,Szemerediについての記事が面白かった.当時のソビエトに留学するに当たって,

本当はA. Gelfondに就くつもりが,ミススペルでI. Gelfandに送られてしまい,Kazhdan, Margulis, Manin, Arnoldといった人たちと一緒のセミナーで何も理解できずにつらかった.………数学セミナー 2014年 01月号 : グラフ理論の新展開の徳重先生の記事から.

Szemerediについてはこのblogでも何度か触れていると思うが,組合せ論,グラフ理論から数論までに大きな足跡を残した数学者である.Gelfond(超越数論)とGelfand(表現論を始め極めて広い範囲で活躍した)とは紛らわしいが,そんなことが本当にあるのか,という印象で大変おかしい.

そして,Kazhdan, Margulis, Manin, Arnoldといった人たちは,ごく控えめに言っても20世紀の巨人たちであって,そういう人たちが同じセミナーで切磋琢磨していたというのも,ものすごい話である.

詳細は,Notices of AMSのSzemerediへのインタビュー記事にある.


2014年1月7日火曜日

平和と繁栄

新年のご挨拶を申し上げます.本年もどうぞよろしくお願い致します.

1限目は1年生向け線型代数.今月4回やると,もう期末試験である.線型空間(ベクトル空間)の公理的な取り扱いを始めたので,ゆっくり目に説明する.

2限目は大学院の代数学.昨年末から圏論の初歩的な話題を扱っていて,今回は米田の補題の証明から.更に,無限次のGalois理論を圏の言葉で述べるバージョンを,結果だけ述べて時間切れ.

昼食を挟んで,午後はM1ゼミ.Ireland-Rosenの14章で,Eisensteinの相互法則やStickelbergerの定理など,こちらも結果を述べるところまでで時間切れ.

ゼミ室が寒いとか,最近は陽が射して外のほうが暖かいとかの雑談のおりに,Stickelbergerの定理(Stickelberger元という,円分体のGalois群の群環の特別な元が,イデアル類群を消す,という定理)から,岩澤理論というものがあって~,という話になる.また,Eisensteinの相互法則の応用として,Fermat予想の第1の場合に対するMirimanoffの判定法が得られるが(Irerand-Rosenの当該箇所に,それを含むFurtwänglerの定理が証明されている),Fermat予想そのものの解決も,やはり岩澤理論の強い影響下でなされた,というような話もする.

1960年前後から50年少々で,数論における様々な大問題が解決されてきたが,それはどうしてなのか,というと,やはりそれが可能になるような,平和と繁栄があったからではないか.やはり平和が大事だ,というような話もした.

世の中の平和も大事だが,やはりそれは個々人の胸の内に平和がないとなされないであろう.

夕方,図書室で新着図書をながめていたら,斎藤毅先生の「Fermat予想」の英語版(の前半)が入っていた.


Fermat's Last Theorem: Basic Tools (Translations of Mathematical Monographs)
Takeshi Saito
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