2008年6月26日木曜日

月曜日の授業:自然と情報の数理・アルキメデスの仮想天秤

アルキメデスの仕事のうち、放物線の切片(放物線上の二点A, Bを結ぶ弦と、放物線そのものが囲む領域)の面積の求積の方法を紹介するのが今回のテーマ。

一つは、汲み尽くし法(method of exhaustion)によるもの。弦の上に三角形(もうひとつの頂点Cは、弦と平行な接線が放物線と接する点)を書き、弦の上に別の三角形(もうひとつの頂点は、A, Bにおける接線の交点)を書いて、切片を挟み込む。後は同じ操作を、内側の三角形の二辺について繰り返すのである。この際、今の操作で作った三角形全部の面積と、一つ手前の操作で作った三角形全部の面積との間に、1:4の比例関係があることがわかる。したがって、放物線の切片の面積は、一番最初に書いた三角形ABCの面積の4/3であることがわかる。

この証明は、高木貞治の「解析概論」の第三章冒頭に再録されていて、大昔、大学に入ってまもなくの頃に読んで非常に感銘を受けたのを覚えている。


次に、「方法」冒頭の、仮想的な天秤を用いた議論。どのようにして放物線の切片の面積の公式にいたったかを、アルキメデス自身が詳らかにしたものである。

「方法」では更に進んで、この仮想天秤の方法で回転放物面の切片の体積などを求めている。このとき、現在の定積分のRiemann和による定義に肉薄しているということが、最近のC写本の研究で明らかになった、というのが、斎藤憲「よみがえる天才アルキメデス―無限との闘い (岩波科学ライブラリー)」やネッツ・ノエル「解読! アルキメデス写本」の一つの核心になっている。

この講義ではそこまでは踏み込まず、次回は地中海世界のその後の主要な数学(エラトステネス、アポロニウス、ディオファントス)を見て、イスラム、インド世界を見て、中世ヨーロッパへお話を進めたいところ。



2008年6月23日月曜日

類数の可除性,非可除性

昨日のセミナに,某大学の院生の方がインタビューに来ていた.が,あまり時間が取れずじまい.本日は勤務先に来ていただいて,私が研究テーマにしている,2次体・2次拡大の類数の可除性・非可除性についての概観を,僭越ながら講義.

午前中は11時過ぎから始めて,結局夕方17時頃まで.問題の発端(Gaussの予想)から,ほぼ時系列で,得られた結果やそのための手法,一般化の試みなどを,主要な結果について概説を試みた.自分としても,頭の中にあることを整理してアウトプットするのは大変よい機会であった.ただ,記憶で話した部分については不正確なところも多々あり,文献などで修正していただきたい(ここを見ていたら).

話しておしまいではなく,書いたものにすればいいのだが(そしてそう言う企画が実はずっとあるのだが),なかなかその儀にいたらず,我ながら歯がゆい所である.

木曜日はセミナ:HasseのKlassenzhal

隣町でのセミナ.今回は常連メンバによる,H. Hasse, Uber die Klassenzahl abelscher Zalhkoeper, 第一章の解説.いわゆるAbel体の解析的類数公式の証明を概観.今後数回で,本書全体をカバーする予定だそうな.ドイツ語が不自由な私には,もの凄くありがたい企画である.

以前,サマースクールでこの話題を担当したことがあるので,その際の資料を見ながら聴講.

某大学の院生の方が,私を含むセミナの常連メンバにインタビューに来ておられたのだが,上記の講義の後はあまり時間が取れず.

いつもは21時の高速バスで帰宅しているのだが,それにも間に合わず,久々にJRの特急に乗った.そして着いてみると市電も終わっている時間で,ざぁざぁ降り.やむを得ずタクシに乗る(ナンバプレートは見なかった).当地で言うところの,「たかつく」(高くつく,の意)半日となった.

2008年6月19日木曜日

火曜日の授業:大学院講義と4年生ゼミ:Galois理論とtaxicab number

午前中の大学院講義は、平方剰余記号の練習問題をいくつか。更にGalois理論の復習。今月の数学セミナー数学セミナー 2008年 07月号 [雑誌])を宣伝するのを忘れた :)

午後は4年生セミナ。教育実習帰りの学生はお疲れの様子。x^3+y^3 = Aというタイプの楕円曲線の加法をねちねちと。結合法則は、「面倒で長い計算」により証明されるという。まぁ、そうなんだけども。

月曜日の授業:自然と情報の数理:円と螺旋

アルキメデスの仕事の解説。実際に「円の計測」の最初の命題(円の面積は、底辺が円周に、高さが半径に等しい直角三角形Eの面積と等しい)を証明。証明は、一方が他方より大きいとして矛盾を導くのを双方の不等号に対して行うもの。議論は、いわゆる取り尽し法。

後半は、「螺旋について」から。アルキメデスの螺旋の最初の一周を書き、終点をθとする。中心Nからθまでを半径とする円も書く。θで螺旋の接線を引き、Nθに直行する直線と接線の交点をAとすると、AZは最初の円の円周に等しく、よって直角三角形ANθの面積は(上の「円の計測」の定理より)半径Nθの円の面積と等しい。

これも、示したい等式が成り立たないとして、不等号を仮定して矛盾を導くというのを二回やるのである。結構長い。時間内に終わらず、一方の不等式が成立しないことは次回に先送り。

今回はプレゼンテーションスライドなしで、黒板でみっちりやった。受講者の諸君は、少々当惑気味の様子 :)

土曜日:秋葉原でミーティング

翌土曜日、宿泊先のホテルの部屋で、揺れを感じる。長い周期で、比較的大きく感じた。8階にいたせいか。上越や能登の震災を思い出し、すぐにテレビをつけてみる。実際に画面が出るまでの時間(地上波デジタルなのだ)が長く感じられる。

当初の報道では、まだ情報が集まりきっていないためか、それほど切迫した様子は感じられなかった。支度をして、御茶ノ水の書店街へ繰り出す。駿河台を下る。明治大学と日本大学(旧カザルスホール)の建物を口をあけながら見上げた。Srinivasaの「Algebraic K-Theory (Modern Birkhauser Classics)」がPaperbackの廉価版で再発されているのを発見。携帯電話越しに、Amazon.co.jpのカートに入れる。(売値が全然違うのだ)。

大学時代の友人と、昼前に秋葉原で落ち合う約束だったので、移動。以前の秋葉原は、食事は知る人ぞ知るようなお店しかなく、喫茶店もファストフードくらいしかなく、その意味では殺伐としていたが、ダイビルやUDXが出来て大変改善された。食事を取りながらいろいろ情報交換。更にエクセルシオールで話し込む。NetBeansとか、Rootとか。HotSpotの電波を掴めて好都合だった。14:30頃解散。

地震の影響で、上越新幹線にも遅れが出ているという情報を拾えたが、詳細が分からないので東京駅まで移動。10分少々の遅れで出発。19時頃帰宅。

都内でのセミナに出席

6/13(金)は、都内某所でのセミナに出席。ζ関数の解析接続や関数等式に関する新機軸のお話であった。数学は留まっていない、ですね。
御茶ノ水の、定宿の一つに泊。

夜は旧友らと会って、久闊を叙す。

2008年6月11日水曜日

火曜日の授業:代数学特論と4年生ゼミ・Euclidの議論

代数学特論では,平方剰余記号の第1, 第2補充法則,相互法則の証明など.特にひねることなく,Gauss和を用いたスタンダードな証明を紹介.更に計算例.

pが4で割って3余るときは,法pで平方剰余な数の平方根を与えるのは易しい,というのを最後に紹介していて,詰まってしまった.あれ,どうしてだっけ,と考えているところに,正午のドン(時の記念日).心臓が止まるかと思った.しかしそのお陰か,解決.

午後の4年生セミナ.Euclidによる,素数が無限個あることの証明を精密化する話.さらに,Silvermanのtaxicab numberについての有名な論説に入った.次回もこれをやる予定.

月曜日の講義:自然と情報の数理・Archimedes

月曜日の自然と情報の数理,Euclidを卒業して,アルキメデスの仕事の紹介に入った.
今回は,歴史的な背景や,有名な逸話などを紹介して「円の計測」,「螺旋について」の結果のみを紹介.

「円の計測」では,与えられた円の面積が,高さが円の半径,底辺が円の周長に等しい直角三角形のの面積と等しいことを述べている.さらに,「螺旋について」では,後者の直角三角形が,螺旋の接線を斜辺とする,ある直角三角形として得られることを述べていたりする.

準備をするのに,斎藤憲,「よみがえる天才アルキメデス―無限との闘い (岩波科学ライブラリー)」に大きく依存した.

斎藤氏は,ネッツ・ノエルの「解読! アルキメデス写本」にも登場し,また同書の解説も書いている数学史の研究者.ネッツとノエルの本で,アルキメデスに夢中になってしまった人が頭を冷やすにはちょうどいい本かもしれない.ネッツとノエルの本では,アルキメデスにスポットライトを当てるあまりに,エウドクソスなどが些か等閑に付されている気味があると.


それにしても,2,3回の講義でどうまとめるか,かなり頭を悩ませている.放物線の切片の求積と,「方法」で述べられている仮想的な天秤の紹介をして,後は立体の求積,ストマキオン,……うーむ.主に文系の学生向けと言うことで,現代の言葉で結果を得るのに,微積分を使うのも少々気を遣いながら,と言うことになりそう.



岩明均の漫画「ヘウレーカ (ジェッツコミックス)」も,もちろん史実に材をとった伝奇ロマンと言うべきものだろうけど,なかなか面白いです.





2008年6月7日土曜日

木曜日はセミナ

隣町でのセミナ。例によってメンバの一人と雑談しつつ。ナルキェビッチ著「素数定理の進展 (上)」の話など。私は木曜の昼休みに買ったばかりで読んではいないけど。

高速バスの停留所が、ドトールのまん前に移動していた。しばらく時間があるので、私はドトールでパソコンを広げてお仕事。一時間ほど集中して作業できた。ドトールしばらく前から完全分煙化(喫煙席とは透明なパーティションで区切られた)、居心地が大変良くなった。

今回のスピーカは、某大学のD2の方。関数体の類数のことは以前ちょっとかかわったことがあり、大変興味深く拝聴した。終了後の懇親会の席で、私の勤務先から、同大学の大学院へ進学した方の消息も聞けた。元気な様子で何より。

上掲の、ナルキェビッチの本、文献表が「主要なもの」のみに削られていて、完全版はシュプリンガーのwebからダウンロードすることになっている。その旨が、同書の文献表のページに脚注であるのだが、まだ公開されていないようである。ちなみに原書はこちら。なぜかAffiliateの検索で引っかからない。

2008年6月4日水曜日

火曜日の授業:大学院講義と4年生ゼミ、A Proof that Euler Missed

午前中は大学院の授業。代数的数の全体が体になること。Legendre記号を、(Z/pZ)^*の位数2の指標として導入して、第一、第二補充法則と相互法則を述べ、計算の仕方を解説するところまで。証明は次回。

午後は4年生ゼミ。4人中2人が教育実習で不在の為、短い英文の論説を読んでもらう。1つは、Tom Apostol, A Proof that Euler Missed: Evaluating ζ(2) the Easy Way, Math. Intelligencer, 5(3), 1983.
タイトルどおり、ζ(2)=Σ n^(-2) = π^2/6 を簡単な積分の計算で示すもの。

以前、Calabiによるというsuper ultra simple proofというのを見たことがあったのだが(Zagierの論説だった記憶がある)、Googleで検索して見つかったのは、R. Chapman, Evaluating ζ(2). (PDF).

もう1つは、J. M. Aldaz and A. Bravo, Euclid's Argument on the Infinitude of Primes, Amer. Math. Monthly, 110, 2003. こちらははじめのパラグラフを読んだあたりで、次週持越しとなった。

こういった、小粒でもぴりりと言う趣の記事を集めておくと、ふとした時に役立つ。まとめて、いずれ公開しようと思う。

2008年6月3日火曜日

月曜日の授業:自然と情報の数理、さらばEuclid

自然と情報の数理は、前回積み残した完全数の話から。1+2+...+2^nが素数なら、それをpとしたときp*2^nが完全数であり、偶数の完全数はこの形に限ることを、一通り証明。これで一時間ほど使ってしまった。

本題は、Euclid原論XIIから、円の面積や錐体の体積などの話だったのだが、駆け足になった。Euclidの原論では、例えば円の面積の公式が与えられているわけではない。二つの円が与えられたとき、それらの比は、直径の上に立てた正方形の比に等しい、といった表現である(その比が、円積率であり、我々はそれが円周率πと等しいことを知っている)。

証明は、取り尽くし法を用いた巧妙な議論で、本質的に実数のアルキメデス性を用いており、読みながら、そうそう、そうなんだよ、などと深く納得するのであった。古代ギリシャの数学者と意思の疎通ができたような気がするのである。

Euclidの原論はこのくらいにして、次回からはアルキメデスの仕事をいくつか紹介する予定。参考資料のつもりで買った、ネッツ・ノエル共著「解読! アルキメデス写本」が猛烈に面白く、土日で読了。アルキメデスの著作を収めた現存唯一の写本が、如何に歴史の中を生き抜いてきたか、そしてきわめて状態の悪いこの写本から、如何にして内容を読み出すか、そしてその内容が、古代ギリシャの数学への認識を激変させるさまが述べられている。巻を置く能はず、という調子でした。