2009年10月9日金曜日

隣町セミナ・Sturmの定理の拡張

折からの台風18号の接近で,開催が危ぶまれていた後期最初のセミナである.しかしスピーカ氏は台風接近前に移動を完了しており,8日午後には天候も回復してきていた. 

テーマは,Sturmの定理を実2次体上のHilbert modular cusp formに拡張しようというものである.楕円保型形式に対する,もともとのJ. Sturmの定理というのは以下のようなものであった:lを奇素数とする.f(x)がウェイトk, レベルNの楕円保型形式で,無限遠点での展開が
f(z) = \sum_{n=0}^{\infty} a(n)q^n, \text{        } \forall\,a(n)\in \mathbf{Z}
なるものとする.すると,kとNで具体的に書ける(lには依らない)ある定数κが存在して,
\text{if } l\mid a(n) \text{ for } \forall n \le \kappa, \text{      then   } l \mid a(n) \text{    }\forall n\in\mathbf{Z}.

この定理は20年程前に発表されていたが,Kohnen-Onoが,虚2次体の類数の非可除性や,有理数体上定義されたCM楕円曲線のTate-Shafarevich群の位数の非可除性を示すのに応用して注目を集めた.ポイントは,虚2次体の類数や,CM楕円曲線のTate-Shafarevich群の位数に密接に関係する量(実はそれらのL関数の特殊値)を係数に持つ半整数ウェイトの楕円保型形式が存在することである.この保型形式に,Sturmの定理を適用する.

虚2次体の類数を,総実代数体上のCM体の相対類数に拡張しようというのは自然な発想で,すると基本的なツールとして,Sturmの定理を,総実代数体上のHilbert保型形式に拡張したものがひつようになる.

スピーカ氏の結果は,総実代数体として実2次体をとれば,Sturmの定理の類似が成り立つ,というものであった.証明の方針は,Sturmのもともとのものではなく,Doi-Ohtaによる,modular曲線のreduction mod lに対するRiemann-Rochを使うものを,Hilbert modular surfaceの場合に適合させるというもの.代数幾何的なセットアップが必要になるので,技術的には非常に込み入ったものになる.大変興味深く拝聴した.

毎回,セミナ終了後に会食していた店が9月いっぱいで閉店していたのが,最後に待っていたサプライズ.有為転変である.

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