2008年2月25日月曜日

梅田望夫とDyson親娘

梅田望夫さんへのインタビュー記事を読んでいた.
末尾に
「Q:最後に、梅田さんのキャリアパスの中で、影響を受けた方はいらっしゃいますか?」
というインタビュアーの質問がある.梅田氏は
「Esther Dysonという女性です。彼女は創成期のIT産業界で、いわゆるビジョナリーと呼ばれる人ですね。」
と即答していて,幾つかのピースがぴったりとはまった気がした.

E. Dysonに影響を受けているということは,氏のウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書 687)でも触れられている(同書p. 127から).



氏はADLという経営コンサルティング会社に在籍しつつ,様々なロールモデルを研究していた.その間に,E. Dysonの「カンファレンスとニュースレター」というビジネスモデルを学び,強く共感したそうである.E. Dysonのビジネスは,ニュースレター年間購読料が$500(上記インタビュー記事では$600), カンファレンスが年一回$2,500(同$3000)というものだったらしい.梅田氏はこれを日本流にアレンジし,収益もさることながら,大きな人脈を築くことになる.

同書を読んだときにピンとこなかったのは,E. Dysonの名前がカタカナで表記されていた事が大きい.最初にリンクしたインタビュー記事は,web媒体ということもあって,Esther Dysonと書いてある.彼女の父はFreeman J. Dysonなのである.

F. Dysonの名前を挙げるときに,何をした人かを説明するのはちょっと難しい.数学と理論物理学で研究者としてのキャリアをスタートさせた.出世作は,Schwinger, Feynman, Tomonagaの量子電磁力学が,定式化は異なるが理論的に同等であることを示した仕事らしい.S. SchweberのQED and the men who made it : Dyson, Feynman, Schwinger, and Tomonaga. Princeton Univ. Pressという本が,Google Booksで拾い読みできる(リンクはGoogle Books).

しかし彼が有名なのは,科学技術におけるVisionaryとしてではないかと思う.十分進んだ科学技術を持った知的生命体は,住む惑星を照らす恒星をすっぽりと覆う殻を持っている,というDyson殻(またはDyson球)の概念などである.

F. Dysonのいくつかの著作,例えば自伝宇宙をかき乱すべきか〈上〉 (ちくま学芸文庫)同〈下〉や,科学の未来,みすず書房,を読んで感じるのは,物理学,科学技術への理解に基づいた極めて透徹した視線である.そしてそれらに基づいた信念,「私たちは遠くへいけるのだ」.それは,彼の著作にしばしば引用される,メイフラワー号によるアメリカ入植,モルモン教徒のユタ入植から,スペースコロニー,他惑星への入植にまで及ぶ.

F. Dysonの視点は,科学と技術に基づき,その視野は極めて長い時間的スパンと,人類全体ににわたる.一方で梅田氏の視点は,やはり科学と技術に基づいてはいるが,視野はもっと人間的なスケールの時間的スパン,そしてほぼ同時代の人々に渡る.共通しているのは,それぞれが経てきた人生での経験に基づいて(あるいは経験がありながらも)選び取った,先に進もうとする気持ちと姿勢ではないかと思う.






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