2012年4月28日土曜日

Hasse-Weil $L$函数:mod 4で1の素数は2平方数の和

$E$が有理数体$\mathbf{Q}$上定義されているとき,$E$が良還元を持つような素数$p$について,$E\pmod{p}$の$Z(E\pmod{p}/\mathbf{F}_p;\, T)$の分子をEuler因子とし,また良還元ではない素数についてもしかるべく調整した因子$(*)$を掛けることで,$E/\mathbf{Q}$のHasse-Weil $L$函数を \[ L(E/\mathbf{Q};\, s) := \prod_{p}(1-a_p p^{-s}+ p^{1-2s})^{-1}\times (*) \] と定義する.この$L$函数は$s$の実部$>3/2$で収束するが,さらに全平面に解析接続され,$s$と$2-s$での値を関係づける函数等式を持つことが「予想」されていた,が,これは1990年代から2000年代に掛けて,志村・谷山予想のWilesらによる証明の帰結として解決された.
しかし,$E/\mathbf{Q}$が虚数乗法を持つ場合には,$L(E/\mathbf{Q};\,s)$はHeckeの$L$函数にによって表され,上に述べた解析接続や函数等式は1950年代にDeuring, Weilらにより解決されていた.
考える楕円曲線を,$E\colon y^2 = x^3-Dx$, $D$は整数,に限ることにする.この$E$を良還元を持つ素数$p$(具体的には$p\nmid 2D$なる素数であることが示される)で還元したときの$\mathbf{F}_p$有理点の個数は \[ \#E(\mathbf{F}_p) = \begin{cases} p +1 -\overline{\left(\frac{D}{\pi}\right)_4}\pi - \left(\frac{D}{\pi}\right)_4 \pi, \quad p\equiv1\pmod{4},\; p =\pi\overline{\pi}, \; \pi\equiv1\pmod{2+2i},\\ p +1, \quad p\equiv3\pmod{4}, \end{cases} \] で与えられる.ここで,$p\equiv1\pmod{4}$なる素数は$\mathbf{Z}[\sqrt{-1}]$で$p=\pi\overline{\pi}$と分解するとし,$(D/\pi)_4$は4乗剰余記号である(よってこれまでの記号で$a_p$等と書かれてきたFrobeniusのトレースも明示的に,$p\equiv1\pmod{4}$もしくは$p\equiv3\pmod{4}に応じて,$4乗剰余記号を用いて,もしくは$0$と,求められている).
さて,$O=\mathbf{Z}[\sqrt{-1}]$上の,導手$(8D)$,重み$1$の代数的Hecke指標$\chi$を,$O$の素イデアル$P$に対して, \[ \chi(P) \colon{}= \begin{cases} 0,\quad P\mid 2D,\\ \overline{\left(\frac{D}{\pi}\right)_{4}}\,\pi, \quad P=(\pi),\; \pi\equiv1\pmod{(2+2\sqrt{-1})}, \end{cases} \] と定義する.$\chi$に対するHeckeの$L$函数$L(\chi;\,s)$を \[ L(\chi;\, s) := \prod_{P}\left(1-\chi{(P)}N(P)^{-s}\right)^{-1} \] と定義するとこれはある半平面で広義一様に収束し,また全複素平面に整函数として接続され,$s$と$2-s$との間の函数等式をみたす.
すると,Hasse-Weil $L$函数のEuler因子に注目すると,$p\equiv1\pmod{4}$の時は \begin{eqnarray*} 1-a_p p^{-s} + p^{1-2s} &=& \left(1-\overline{\left(\frac{D}{\pi}\right)_4}\pi p^{-s}\right) \left(1-\left(\frac{D}{\pi}\right)_4\overline{\pi} p^{-s}\right)\\ &=& \left(1-\chi(P)NP^{-s}\right)\left(1-\chi(\overline{P})N\overline{P}^{-s}\right), \end{eqnarray*} $p\equiv3\pmod{4}$の時は \[ 1-a_p p^{-s} + p^{1-2s} = 1+p^{1-2s} = 1-\chi(P)NP^{-s}, \] となる.
つまり,楕円曲線$E\colon y^2=x^3-Dx$のHasse-Weil $L$函数が,Heckeの$L$函数と一致することが示される. \[ L(E/\mathbf{Q};\,s) = L(\chi;\, s). \] よって$L(E/\mathbf{Q};\,s)$も,全複素平面に整函数として接続され,$s$と$2-s$との間の函数等式をみたす.
(参考文献は,J. Silverman, Advanced Topics in the Arithmetic of Elliptic Curves (Graduate Texts in Mathematics)のChap II, §6と,Ireland-Rosen, A Classical Introduction to Modern Number Theory (Graduate Texts in Mathematics)の18章 §6.また,Hasse-Weilの$L$函数の発見の経緯については,Weil自身による証言が大変興味深い.数学の創造―著作集自註 (1983年) (数セミ・ブックス〈4〉)の[1952d]参照.

初出時$E\colon y^2=x^3+Dx$となっていたのは$E\colon y^2=x^3-Dx$の誤りでしたので訂正しました(2012/05/03)

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